アントワープから車で30分ほど東へ走ると、ウェステルローという町に着きます。人口はおよそ2万5千人。町外れの住宅街を抜けた先に、ヘット・カイプイェというスタジアムがあります。収容人数は8,035人。満員になれば、計算の上では町の3人に1人がそこにいることになります。
Jリーグに慣れた目で見ると、「1部のクラブのホームが8千人?」と、少し戸惑うのではないかと思います。私も最初はそうでした。だから今回は、ベルギーのスタジアムの大きさを数字で並べたうえで、なぜこの規模感に落ち着いているのかを、一緒に考えてみたいと思います。
まず、数字を並べてみます
2025-26シーズンのベルギー1部は16クラブでした。いちばん大きいのがスタンダール・リエージュのスタッド・モーリス・デュフラーヌで30,023人、次がクラブ・ブルッヘとセルクル・ブルッヘが共用するヤン・ブレイデル・スタディオンで29,042人、ゲンクのセヘカ・アレナが24,956人、アンデルレヒトが21,500人、ヘントが20,000人と続きます。つまり、2万人を超えるスタジアムは16のうち5つだけでした。
反対側を見ると、デンデルが6,429人、ウェステルローが8,035人、ラ・ルヴィエールが8,050人、ユニオン・サン=ジロワーズのスタッド・ジョゼフ・マリアンが9,400人。1万人に届かないホームが4つあり、OHルーヴェンのデン・ドレーフがちょうど10,000人です。2026-27シーズンは18クラブに増えましたが、加わったベーフェレン(8,190人)やロンメル(8,000人)も同じくらいの規模なので、全体の顔ぶれは大きく変わっていません。
Jリーグと並べてみると
Jリーグ公式の一覧(2026年8月7日現在)を開くと、日産スタジアムが71,624人、埼玉スタジアム2002が62,040人、豊田スタジアムが42,753人です。ベルギーで最大の3万人のスタジアムが、J1ではだいたい真ん中あたりの大きさになります。J1でも柏の15,098人や町田の15,320人のようなコンパクトなホームはありますが、それでもベルギーの下半分のクラブから見れば、十分に大きい部類です。
観客数でも差が出ます。2025年のJ1は年間で8,073,557人が入り、1試合平均は史上初めて2万1千人を超えました。一方ベルギーでは、最も動員力のあるクラブ・ブルッヘでさえ2024-25シーズンのリーグ戦平均は22,496人、スタンダールが14,859人です。つまり、ベルギーで一番人が集まるクラブの数字が、J1の「平均」とほぼ同じ、という関係になっています。
そもそも、国と街の大きさが違います
ベルギーの人口は2025年1月1日時点で11,825,551人(ベルギー統計局)。日本は同じ2025年で約1億2,300万人(総務省統計局の概算値)ですから、およそ10分の1です。そうすると、1部リーグの試合が同じ数だけあれば、一つの試合に来られる人の母数も、単純に言えば10分の1になります。
もう一つは街の大きさです。ブルッヘは市の人口が118,509人(2022年)、シント=トロイデンが40,672人(2020年)、ウェステルローが24,884人(2018年)。日本でいえば地方都市や町の規模ですが、それぞれに1部のクラブがあり、しかも国土が小さいので隣町にもライバルがいます。人口10万人の街に3万人のスタジアム、というのは、むしろよく入っている方なのではないかと感じます。
古いスタジアムが、街のなかに残っています
もう一つ見逃せないのが、スタジアムの歴史です。ユニオンのジョゼフ・マリアンは1919年、アントワープのボスイルは1923年に開場しています。100年以上前から同じ場所にあり、その周りに住宅が建ち、道路が通り、街ができていきました。だから、今から大きく広げようとしても、土地がありません。
ユニオンは近年リーグ優勝を果たしましたが、それでも9,400人のスタジアムを使い続けていて、ブリュッセル南西部のベンプト地区に16,000人規模の新スタジアムを建てる計画が進められています。それでも「16,000人」です。アントワープも2025年から東側のスタンドを建て替えて、収容を約16,000人から約21,000人に増やしましたが、それでも埼玉スタジアムの3分の1ほどです。Jリーグの多くのスタジアムが、1990年代以降に郊外の広い土地に新しく造られたのとは、成り立ちがまるで違うのだと思います。
小さいからこそ、近いものがあります
では、小さいことは弱点なのでしょうか。私は、そうとも言い切れないと感じています。8千人のスタジアムでは、ピッチと最前列の距離が近く、選手の声や、ボールを蹴る音、監督の指示まで聞こえてきます。ゴール裏の歌が反対側のスタンドまで届くのに、時間がかかりません。そして、平日の夜にふらりと出かけても、隣に座っているのが同じ町の人だったりします。
大きなスタジアムには、大きなスタジアムにしかない高揚感があります。ただ、ベルギーのスタジアムの規模感は、「足りない」というより、「街の大きさにちょうど合っている」ものなのかもしれません。日本から観に来る方には、その近さを、ぜひ一度体感してみてほしいと思っています。