ベルギーサッカー協会(RBFA/URBSFA)のサイトには、毎年ひっそりと公開される数ページのPDFがあります。「仲介人に関する報告書」と題されたその書類の末尾には、細かな表が何ページも続いていて、一行ごとに選手の名前、送り出したクラブ、受け入れたクラブ、そして間に立った事務所の名前が並んでいます。ガンビアからヘント、エクアドルからアントワープ、日本からシント=トロイデン。行を追っていくと、このリーグに人が集まってくる経路そのものを眺めているような気持ちになります。
このサイトでは、ベルギーを「経由地として構造化されたリーグ」として見てきました。今回はその経由地で、選手とクラブの間に立っている人たち——代理人と、その事務所——がどこに立っているのかを、この公式報告書を手がかりに一緒に眺めてみたいと思います。
年に約2,800万ユーロが、代理人へ流れている
まず数字から入ります。2022年4月から2023年3月までの1年間で、ベルギーのプロクラブが仲介人に支払った金額は、協会の第8次報告書によると合計で約2,826万ユーロでした。内訳は、クラブが自分の勘定で払った分が約2,203万ユーロ、選手の代わりにクラブが立て替えて払った分が約623万ユーロ。選手自身が払った分は、別に約235万ユーロと記されています。
同じ期間に1部クラブが受け取った移籍金は約2億5,185万ユーロ、支払った移籍金は約1億7,116万ユーロですから、代理人への支払いは、受け取った移籍金のおよそ1割強にあたる規模、という見方ができそうです。少し前を振り返ると、2019年4月〜2020年3月には1部と2部を合わせて約4,600万ユーロ、翌年は約3,840万ユーロと報じられていましたので、金額そのものはここ数年で落ち着いてきたように見えます。ただし、この数字はクラブの自己申告をもとにしていて、協会自身も「正確性・完全性を保証するものではない」と注記しています。だから、規模の目安として受け取るのがよさそうだと感じています。
「登録簿」に並ぶ名前から見えること
報告書の末尾の表を眺めていて、私が面白いと思ったのは、名前の顔ぶれです。ベルギーやオランダに拠点を置く事務所の名前が何十行も続く箇所がある一方で、イギリスやドイツに本拠を持つ国際的なグループの名前も、ところどころに顔を出します。つまり、ベルギーの移籍市場は「地元の代理人が仕切る閉じた市場」でも、「大手が全部を持っていく市場」でもなく、両方が同じ表の中に同居している場所なのだと思います。
クラブ別に見ると、2022〜23年にクラブが自らの勘定で最も多く支払ったのはヘンク(約367万ユーロ)、ヘント(約345万ユーロ)、アントワープ(約309万ユーロ)でした。前の年までは支出額の首位が続いていたアンデルレヒトは、この年は自己勘定分が約155万ユーロにとどまる一方、選手の代わりに払った分が約198万ユーロと最も大きく、支払いの「かたち」がクラブごとにかなり違うことがうかがえます。
そして、行の多くを占めているのが国際移籍です。ここに、代理人がベルギーで担っている役割の核心があるのではないかと思います。たとえば日本人選手については、2000年代から2020年頃までは、クラブのスカウトよりも代理人のネットワークを通じてベルギーへ来るケースが多かった、と長くこのリーグで代理人業に携わってきた人物が地元メディアの取材で語っています。西アフリカからの選手についても、比較的緩やかな労働許可の要件と若手を試合で使う土壌が、選手側・代理人側の双方からベルギーを「入口」として選ばせてきた、という整理が複数の記事に見られます。
2018年の捜査と、そのあとの「透明化」
この業界を語るとき、避けて通れない出来事があります。2018年10月10日、連邦検察が「オペレーション・クリーンハンズ(Propere Handen)」と呼ばれる大規模な捜査を公にし、国内外で50カ所以上の家宅捜索が行われました。焦点のひとつが、代理人への手数料を当局から隠すための仕組みがあったのではないか、という点でした。その後、複数の関係者が罰金の支払いで訴追を回避する和解に応じ、残る関係者の公判は2026年時点でも始まっていない、と報じられています。個々の責任については、ここでは踏み込まないでおきます。
ただ、この捜査が業界の「かたち」を変えたことは確かだと思います。2020年7月1日、プロリーグと協会は仲介人に関する新しい規則を施行しました。柱は三つです。協会への登録(2年間有効、シーズンごとに500ユーロ)。クラブから代理人への支払いは、協会の「クリアリングハウス」の書面承認を得てからでないと実行できないこと。そして、ひとりの代理人が選手とクラブの両方、あるいは売り手クラブと買い手クラブの両方を同時に代理することの禁止です。フランダース地域政府も2019年6月から、スポーツ代理人に登録と2万5,000ユーロの保証金を義務づけました。冒頭で触れた報告書の細かな表は、この透明化の産物でもあります。
さらに2023年10月には、FIFAの新しい代理人規則(ライセンス試験、手数料の上限など)が始まりましたが、欧州の裁判所で争われたため、同年12月に一部が世界的に停止されました。2026年7月に欧州司法裁判所の判断が出て、手数料の上限や複数代理の禁止といった仕組み自体は、それだけで競争法違反とは言えない、という整理が示されたと伝えられています。実際の運用がこれからどう落ち着いていくのかは、もう少し見守る必要がありそうです。
勢力図というより、配置図
「勢力図」という言葉で調べ始めたのですが、報告書を読み終えて残ったのは、誰がいちばん大きいかという話よりも、どこに誰が立っているかという配置図のような感覚でした。遠い国から選手を見つけてくる小さな事務所。国内の契約更新を細かく積み重ねる地元の会社。五大リーグへの出口で顔を出す国際的なグループ。そして、その全部に承認印を押すクリアリングハウス。
ベルギーが「経由地」であり続けられるのは、クラブの育成力や労働許可の仕組みだけでなく、この配置がひとまず機能しているからなのかもしれません。次に移籍のニュースを見るとき、選手とクラブの名前の間に、もう一人誰かが立っていることを思い出してみる。それだけで、この小さなリーグの見え方が少し変わってくるのではないかと思っています。