ゴールが決まって、スタンドが沸いて、それなのに主審は耳に手を当てたまま動かない。今ではおなじみの「あの間」です。私はあの静けさの中で、いつも同じことが気になります。この判定は、いま、誰にどう説明されているのだろう、と。
ベルギーは、かなり早かった
ベルギー1部は、VARについては欧州でも早い部類に入ります。機材会社の資料によると、2016年12月にオフライン検証に加わり、2017-18シーズンにはテスト運用へ。その季のプレーオフでは475件超が確認され、30件で判定が変わったという数字も残っています。競技規則にVARが正式に載ったのが2018年3月ですから、ほぼ同時期です。
Jリーグは、一度足踏みをした
一方のJリーグは、2019年9月のルヴァンカップ準々決勝が最初で、2020年のJ1開幕節から本格導入。ところが新型コロナの中断で日程が過密になり、審判員の確保が難しいという理由で残り試合は見送られ、J1全試合での通年運用は2021年からです。そうすると、ベルギーが3シーズンほど先に「VARのある日常」に入っていた、と言えそうです。
判定は、遠くの部屋から届く
ベルギーのVARは2021年ごろから、ブリュッセル南のトゥビーズにある協会拠点に集約されています。2023年時点で責任者は「3Dのオフサイドラインを引くのに最低2分かかる」「半自動オフサイドはいまのベルギーには高すぎる」と率直に話していましたが、2025-26シーズンからAIを使った半自動オフサイドが入ることになりました。予算の小さなリーグが、待ちながら追いついていく。ベルギーらしい歩き方だと感じています。
「説明する人」の顔が見える
ベルギーでは、審判部門の技術責任者が毎週DAZNの「Under Review」に出て、週末の判定を自ら検証します。2024年7月からは元主審のジョナサン・ラルドさんがその役で、部下の判定を「間違いだった」と認める回も珍しくありません。Jリーグにも「Jリーグジャッジリプレイ」(2018年開始、2024年から「Jリーグ審判レポート」に衣替え)やメディア向けブリーフィングがあり、方向は似ています。違うのは、責任者本人が毎週表に立つかどうか。だからこそ批判も個人に向きやすく、2023年12月のアンデルレヒト対ヘンク戦では、PKでのVARの見落としから「試合全体をやり直す」という裁定まで出ました(2024年3月にスポーツ仲裁裁判所が覆し、再試合は行われていません)。この議論が数か月続いたこと自体が、信頼の揺れやすさを物語っていたように思います。
そして、スタジアムに声が届く
2026-27シーズンからは、どの場面を確認しているかが大画面に即時表示され、10月の代表ウィーク明けからは主審がマイクで最終判定を説明する予定です。2部では監督が1試合2回まで映像確認を要求できる「チャレンジ」方式も始まります。私が確認できた範囲では、Jリーグでまだ同じ形の発表は見つけられませんでした。
編集部には、このリーグでプレーした経験のある人がいます。その人いわく、判定に納得できない夜で一番つらいのは、「なぜ」が分からないままロッカールームに戻るときだった、と。技術の精度と同じくらい、説明の場所がどこにあるか。ベルギーの試行錯誤は、その問いを少し先に引き受けているのではないかと思っています。
公開前に再確認をお願いしたい点:(1)主審のマイク説明が実際に10月から始まったか、(2)2025-26のベルギーでの半自動オフサイドの運用実績、(3)Jリーグ側でスタジアム内の判定説明が新たに発表されていないか。