3月の終わり、レギュラーシーズンの最終節が終わった翌週に、順位表を開いてみます。すると、首位のチームの勝ち点が、先週の半分ほどに減っているのです。計算を間違えたのではなく、これがベルギー1部の「春」の風景でした。
Jリーグに慣れた目には、かなり奇妙に映るのではないかと思います。私自身、最初にこの順位表を見たとき、何が起きたのか分かるまでに少し時間がかかりました。だから今回は、この仕組みがどう動いていたのか、なぜ生まれ、そしてなぜ終わったのかを、一緒に順番にたどってみたいと思います。
勝ち点が半分になる春
2025-26シーズンまでのベルギー1部は、16チームでした。まず秋から春にかけて、ホーム&アウェーの総当たりで30試合を戦います。ここまではJリーグと同じです。違うのは、ここで順位表がいったん閉じられ、チームが3つのグループに分かれるところからです。
- 1位〜6位は「チャンピオンズ・プレーオフ」へ。6チームでもう一度総当たり(10試合)を行い、優勝とチャンピオンズリーグ出場権を争います。
- 7位〜12位は「ヨーロッパ・プレーオフ」へ。こちらも6チームで10試合を戦い、勝者はチャンピオンズ・プレーオフの4位と対戦して、残りの欧州カップ出場権を懸けた1試合に臨みます。
- 13位〜16位は「降格プレーオフ」へ。4チームで6試合を戦い、残留を争います。
そして、上位2グループでは、レギュラーシーズンの勝ち点が半分(端数は切り上げ)に圧縮された状態からプレーオフが始まります。首位の勝ち点が減って見えたのは、このためでした。30試合の貯金は消えないものの、その価値は半分になる。そうすると、6位のチームにも優勝の芽が残る、という仕組みだったわけです。
Jリーグの「一枚の順位表」との違い
比べてみると、Jリーグの分かりやすさが際立ちます。2026-27シーズンのJ1は20チームによる38節のホーム&アウェーで、1年を通じて積み上げた順位表が、そのまま最終順位になります。優勝も、欧州でいうACL出場権も、降格も、すべて同じ一枚の表で決まります。
ベルギーの旧制度は、言ってみれば「一つのシーズンの中に、もう一つ小さなシーズンを入れ子にした」形でした。30試合の本編があり、そのあとに10試合の「続編」がある。だから、本編で独走していたチームが続編で追いつかれる、ということが実際に起こり得たのです。
なぜ2009年にこの仕組みが生まれたのか
プレーオフが導入されたのは2009-10シーズンからです。同じタイミングで、1部のチーム数は18から16に減らされました。提案したのはプロクラブの連合組織であるプロ・リーグで、2008年5月にベルギーサッカー協会が承認した、と伝えられています。
背景として語られているのは、大きく分けて2つです。一つは、ボスマン判決以降、ベルギーのクラブが欧州カップ戦で結果を出しにくくなっていたこと。もう一つは、リーグとしての商品価値です。当時の有力クラブは「格下との試合が多すぎる」と考え、強豪同士の対戦を増やせば放映権や集客の面でも魅力が上がり、欧州での競争力にもつながる、と主張していたようです。中位のチームにとって終盤が消化試合になりがちだった点を、別グループで戦わせることで解消したい、という狙いもあったと見られています。
ただ、当時のサポーターの多くはこの制度に反対だった、という記録も残っています。小さなクラブの賛成票を得るために、大きなクラブが財政的な補償を約束した、という話も伝えられていますが、この部分は当時を知る方の証言を待ちたいところです。
17シーズンで見えてきたこと
この制度には、確かに良い面がありました。優勝争いが最終節まで、ときには最終節の最後のプレーまでもつれ込む。春の2か月は、毎週のようにビッグマッチがある。話題性という点では、狙いどおりに機能していたのだと思います。
一方で、時間が経つにつれて課題も見えてきました。まず、仕組みが複雑で、初めて見る人に説明しづらいこと。それから、ヨーロッパ・プレーオフの側は、勝っても「もう1試合の権利」が手に入るだけということもあって、選手もサポーターも気持ちを保ちにくく、スタンドが寂しくなりがちだった、と伝えられています。さらに、欧州カップ戦を戦う上位クラブからは「国内の試合数が多すぎて日程が厳しい」という声が強まっていきました。
そして2026年、リーグは「一枚の順位表」へ戻りました
2025年2月、プロ・リーグの総会は、僅差の投票だったと報じられていますが、2026-27シーズンからプレーオフを廃止し、1部を18チームに戻すことを決めました。全34節のホーム&アウェーで、上位4チームが欧州カップ戦へ、下位2チームが自動降格という、ごくシンプルな形です。プロ・リーグのCEOであるロリン・パリス氏は、「どのクラブも望みのすべてを得たわけではないが、大小のクラブ双方の必要を反映した妥協だ」という趣旨の言葉を残しています。
2026年8月7日、ベルギーでは17年ぶりにプレーオフのないシーズンが開幕しました。奇しくも同じ週末、日本ではJリーグが初めての秋春制シーズンを迎えています。かたや「一枚の順位表」へ戻り、かたやカレンダーを欧州に合わせる。二つのリーグは、少しずつ互いに歩み寄っているようにも見えます。
春に勝ち点が半分になる、あの独特の風景はもう見られません。ただ、なぜあの仕組みが必要だったのかを知っておくと、これからのベルギーリーグで起こることも、少し違って見えてくるのではないかと、私は感じています。