ベルギーには、「シマウマ」と呼ばれるクラブがあります。そして、「月を消そうとした人たち」の街を本拠地にするクラブもあります。愛称だけ聞くと冗談のようですが、その由来を辿っていくと、どれも街の歴史にちゃんとつながっているから面白いのです。
前回はブルージュ、アントワープ、ヘントという3つの街を歩きました。今回はその続きとして、ルーヴェン、メヘレン、シャルルロワ——性格のまったく違う3つの街と、そのクラブの色を見ていきたいと思います。
ルーヴェン——3つのクラブの色を受け継いだ、大学の街
ルーヴェンは、1425年創設のルーヴェン・カトリック大学を抱える、ヨーロッパでも指折りの大学都市です。学生の自転車が行き交うこの街のクラブ、OHルーヴェン(Oud-Heverlee Leuven)は、今回の3クラブの中では飛び抜けて若く、2002年に生まれました。
ただ、「若い」と言い切ってしまうのは少し違うかもしれません。OHLは、スターデ・ルーヴェン(1905年創設)、ダーリング・クラブ・ルーヴェン(1922年創設)、そしてズワルテ・ダイフェルス・アウト=ヘフェルレー(1957年創設)という3つのクラブが合併してできたクラブです。ユニフォームの基調は白ですが、エンブレムにはスターデの緑、ズワルテ・ダイフェルスの黒、ダーリングの赤が組み込まれていて、消えていった3つのクラブの色が、いまも一枚の紋章の中で生き続けています。
歴史あるクラブのような一言で語れる愛称は、まだ持っていません。だからこそ、色の中に前身クラブの記憶を編み込んで新しい物語を書き始めているところなのだと思うと、この若いクラブの見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。
メヘレン——「月を消した街」の黄色と赤
メヘレンの人たちは、昔から「マーネブルッサース(月消し人)」と呼ばれてきました。1687年のある霧の夜、聖ロンバウツ大聖堂の塔が赤く光っているのを見た住民たちが「塔が燃えている」と大騒ぎになり、バケツリレーで消火に向かったところ、火事の正体は霧に映った月明かりだった——という逸話に由来します。笑い話のようですが、街のために一斉に駆けつけたという意味では、悪くない話だと私は感じています。
この街のクラブ、KVメヘレン(KV Mechelen)は1904年創設。黄色と赤のストライプのシャツに黒のパンツという、一度見たら忘れにくい配色です。愛称は「マリンワ(Malinwa)」。メヘレンのフランス語名「マリーヌ(Malines)」に由来する呼び名が、フラマン語圏らしい発音に変化して定着したものです。実際、クラブは1970年まで「FCマリノワ」というフランス語由来の名前を名乗っていました。街の呼び名の歴史が、そのまま愛称に残っているわけです。
そしてこのクラブには、1988年にカップウィナーズカップ決勝でアヤックスを1-0で破り、ヨーロッパのタイトルを手にした歴史があります。月を消しに駆けつけた街が、300年後にはヨーロッパの強豪を本当に沈めてしまったのだと思うと、なんだか出来すぎた物語のようにも感じられます。
シャルルロワ——「黒の国」を走るシマウマ
シャルルロワの周辺は、古くから「ペイ・ノワール(Pays Noir/黒の国)」と呼ばれてきました。石炭の産地として、19世紀には炭鉱と製鉄で栄えた工業地帯です。ワロン地方のこの街の気質は、これまで見てきたフランドルの街々とはまた違う、働く街の顔をしています。
スポルティング・シャルルロワ(Sporting Charleroi)は1904年創設。白と黒のストライプのユニフォームから、「レ・ゼーブル(Les Zèbres/シマウマ)」の愛称で呼ばれています。由来自体はシンプルに縞模様のシャツからですが、「黒の国」で黒いシマ模様を纏って走るクラブ、と考えると、この白黒には土地の色が透けて見えるような気がしてなりません。
現在のホームスタジアムの名前は「スタッド・デュ・ペイ・ド・シャルルロワ」。かつてのスタジアムは炭鉱のすぐそばにあったそうですから、この街のサッカーは、文字どおり炭鉱とともに育ってきたのだと思います。
第2弾を終えて
前回の3都市が「歴史の重み」「老舗の誇り」「地元魂」だとすれば、今回の3都市は「再出発」「言い伝え」「労働」という言葉が浮かびます。同じ国のリーグなのに、街が変わるとクラブの物語の質感まで変わるのが、ベルギーサッカーの奥行きだと感じています。
順位表の上ではただの1行でも、その背景には大学の街の再出発があり、月を消そうとした夜があり、炭鉱の記憶があります。次にこの3クラブの試合を見かけたら、スコアの前に、その色の来歴を少しだけ思い出してもらえたら嬉しいのではないかと思っています。